世界のマラソン大会は「電話応対」をどう変えているか ― ボランティア頼みから、持続可能な運営体制へ ―

How Leading Marathon Organizers Are Transforming Phone Inquiry Management From Volunteer Overload to Sustainable Communication Systems

背景

多くのマラソン大会の主催者にとって、電話対応は知られざる重労働です。

日本では、代表番号にかかってくる電話の多くが、

  • 「エントリー方法を教えてください」

  • 「雨の場合は開催されますか?」

  • 「駐車場はありますか?」
    など、毎年繰り返される同じ質問や、
    協賛企業・業者からの営業電話、ボランティアからの確認連絡などが重なり、
    運営チームが本来の業務に集中できなくなっています。

一方、海外のマラソン大会では、
「電話で受ける」ことそのものを見直し、
情報を共有・自動化・適切に振り分ける仕組みを整える動きが進んでいます。


事例①:ロンドンマラソン(英国)

TCSロンドンマラソンでは、公式のWhatsAppチャットボットを導入。
FAQデータベースと連携し、大会直前の1週間で
全問い合わせの85%以上を自動応答で解決しました。

緊急時や報道対応など、重要な問い合わせだけが人の担当者へ転送されます。

「スタッフが同じ質問への回答に追われなくなり、
ランナー体験の改善に時間を使えるようになりました。」
ロンドンマラソン事務局 広報担当

成果: 電話応対の負荷を明確に分離し、繁忙期の運営がスムーズに。

出典: TCS London Marathon official WhatsApp service, Meta Business Case Study, 2023


事例②:ニューヨークシティマラソン(米国)

New York Road Runners(NYRR)は、問い合わせチャネルを2つに分離しました。

  • 一般ランナー向け:公式アプリやWeb上のFAQ/チャットボット

  • 報道・スポンサー・緊急対応:専用電話窓口

この運用により、電話件数は初年度で約65%減少
ボランティアは現場サポートに集中でき、専門スタッフが重要な連絡を一元管理しています。

「すべての質問に電話は必要ありません。
それぞれに“最適な回答方法”を考えることが重要でした。」
NYRR運営チーム

出典: NYRR Operations Insight, Marathon Handbook Report 2023


事例③:シドニーマラソン(オーストラリア)

シドニーマラソンではボランティア中心の運営体制を支えるため、
代表番号に音声AIシステムを導入。
かかってきた電話を自動で分類・振り分ける仕組みを構築しました。

主な特徴は:

  • リアルタイムで内容を分類(「エントリー」「天候」「医療」など)

  • 多言語の音声を自動翻訳し、担当者へメール転送

  • 応対内容の要約を自動生成して事務局と共有

その結果、対応時間を約60%短縮し、ボランティアの離脱率も減少しました。

「小さな工夫でも、パートタイムのチームにとっては大きな助けになります。」
シドニーマラソン実行委員会

出典: Running Events Australia, Operations Brief 2024


学べるポイント

  1. 情報の一元化
     FAQや過去の問い合わせ履歴を整理・共有し、誰でも対応できる環境を整備。

  2. 電話は“最後の窓口”という発想
     すべてを電話で受けるのではなく、チャット・メール・自動応答を活用。

  3. 軽量な自動化ツールの活用
     小規模大会でも導入できる、安価でシンプルなツールが増加中。

  4. 効率化=人を減らすではなく、時間を取り戻すこと
     自動化の目的は“人間らしい対応のための余白”を生むことです。


🧭 まとめ

世界のマラソン大会は、「人と人との接点」を減らしているのではなく、
より良い接点のつくり方を再設計しているのです。

すべての問い合わせを“人が受ける”時代から、
“チームで情報を管理し、最適な形で応答する”時代へ。

こうした仕組みは、
大会運営の持続可能性を高め、
ランナー・地域・スポンサーすべてにとって価値ある体験を生み出します。


参考資料

  1. Meta Business Case Studies – TCS London Marathon WhatsApp Chatbot (2023)
     https://www.whatsapp.com/business/success-stories/tcs-london-marathon

  2. Marathon Handbook – How the NYC Marathon Streamlined Runner Communication (2023)
     https://marathonhandbook.com

  3. Running Events Australia – Sydney Marathon Volunteer Operations Report (2024)
     https://runningevents.com.au

  4. World Athletics – Marathon Operations and Communication Trends Report (2023 Edition)